10.オプションで株に保険を掛ける




■ プット・オプションを原資産の保険として使う

大量の株を保有していたけど、ある日突然ブラック・マンデーが訪れて、資産が跡形もなく消えてしまった・・・ という話は、昔からよく聞くよね。

もし自分が保有している株に対して、万が一のための保険が掛けられたら便利だと思わない?


そうかなぁ。私は電力株しか持って無いし、市場が大暴落してもそこそこは耐えられると思うから大丈夫だよ。


うむ。リーマンショックが記憶に新しい中、大した自信だ。
株式市場が大暴落するようなケースでは、ディフェンシブ(※)と言われる電力株でさえ安全とはいえないよ。

※ ディフェンシブ銘柄
景気の後退局面、または相場の下落局面でも大きく値下がりしないと考えられる株式銘柄のこと。 主にインフラ関連の銘柄が該当する。


うーん確かに。
塩漬けにしてた北電株もずいぶん値下がりしちゃったし・・。


もちろん、リーマンショックのような出来事は毎年の恒例行事のようには起こらないが、それでも起こるときには起こる。
今回はプット・オプションを使って、保有株を破滅的な暴落から守る方法を説明しよう。




■ 保有している株に対して、プット・オプションを買う

たとえば、ある投資家がマイクロソフト社の株を1,000株保有しているとしよう。


マイクロソフト 株価
現時点の株価は、約27ドル。
1,000株保有しているから、資産額は27,000ドルだね。


過去1年間の株価を見る限り、安定してるっしょ。
暴落なんてしないんじゃない?


どんなに安定していそうな企業であっても、一年先の業績というのは分からないよ。
現在のように経済が目まぐるしく変化している時代はなおさらだ。

ここでは、この株に対する保険として、プットオプションを買うことを考えてみよう。
自分が持っている株に対して、「特定の価格で売る権利」を買うわけだから、株価暴落時に備えた保険ということになる。

保有している原資産に対して、プット・オプションを買う
→ オプションが保険の役割を果たす


さて。 保険として考えれば、保障期間は長い方が良いし、保障額は大きい方が良いし、願わくば保険料は安いほうが良い。

つまり、なるべく満期までの日数が長く、権利行使価格がアット・ザ・マネーに近く、なおかつプレミアムが安いプット・オプションを買うことができれば、投資家にとってはお買い得な保険ということになる。


自動車保険とかと一緒だね。


うん、考え方は一般的な保険と同じだよ。
今回は、満期日が1年4ヶ月後で、権利行使価格20ドルのオプションを選ぶことにした。 プレミアムは、1株あたり0.6ドルを付けていた。

このように、満期までの日数が長い株式オプションで、特に残日数が9ヶ月以上のオプションは、LEAPSLong-term Equity AnticiPation Securities)とも呼ばれる。

この投資家は、マイクロソフト社の株を1,000株保有しているから、保有株に対応するプット・オプションは10枚となる。(株式オプションは100株で1セット)

結果、プット・オプションの購入コストは、0.6ドル × 100株 × 10枚で、合計600ドルのプレミアムを支払うことになる。


保障期間が1年ちょっとある保険を、600ドルで買ったんだね。
もし1年以内に暴落が起こったら、どうなるんだろう?


では、この半年後にマイクロソフトの株価が暴落して、1株当り10ドルまで値下がりした場合を考えてみよう。

プット・オプションを買っていなかった場合は、(27ドル - 10ドル) × 1,000株で、17,000ドルの損失だ。

一方、プット・オプションを買っていたケースでは、株価がどんなに暴落しても投資家は1株あたり20ドルでマイクロソフト株を売る権利があるから、(27ドル - 20ドル) × 1,000株となり、7,000ドルの損失で済む。
これに、オプションのプレミアム(600ドル)を加えても、トータルで7,600ドルの損失で済むことになる。


■株価が27ドル→10ドルへと急落したときの損失額。(下表)

権利行使価格20ドルのプット・オプションを買った投資家は、その時の株価に関わらず1株当り20ドルで株を売ることができるため、損失額を減らすことができる。

 

持ち株の損失

オプションの購入額

合計損失

一般の投資家

-17,000ドル

無し

-17,000ドル

プット・オプションを 買った投資家

-7,000ドル

-600ドル

-7,600ドル

なるほどね。 保険もバカに出来ないかも。


そうだよ。
実際に証券会社や銀行などの「機関投資家」は、プット・オプションを大量に買って、株価の下落リスクに備えている。 大事な資産を守る必要があるからね。
こういうリスクに備えるための取引は、ヘッジと呼ばれる。


じゃあ、プット・オプションを売るということは、他の投資家に保険を売っているのと同じようなことなの?


そういう見方もできるね。
オプションの売り手は、「何も無いところから、保険を発行して売る」という保険会社がやっていることそのものを、投資の世界でやっているようなものだよ。


ほぉー、ちょっとカッコイイね。
オプショントレードでは、保険を買うことも売ることもできるってことか。


今回は「株価が下落するかもしれない」という前提の下で、プット・オプションを保険として購入する例を紹介した。

これとは別に、「近い将来、高い確率で株価が下落するだろう」というケースにおいては、このような取引は行うべきでない点に注意して欲しい。

そのように考えるなら、単純に保有株を売却した方がいい。
株を持ちながらプット・オプションを買うケースというのは、あくまでも株価の上昇に期待しつつ、万が一のときに損失を小さく抑えたい、という場合であることを覚えておこう!


了解。 いつでもオプションを取引すれば良いって物でもないんだね。


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